マインドファック映画欄

主にサスペンスやマインドファック系の洋画の紹介、たまに雑記を少々

マインドファック『ジェイコブス・ラダー』

ジェイコブス・ラダー [DVD]

「人は、一日に一歩ずつ

  『ジェイコブの階段』を登っている」

ジェイコブス・ラダー

1990年制作

監督 エイドリアン・ライン

脚本 ブルース・ジョエル・ルービン

出演 ティム・ロビンス
   エリザベス・ペーニャ
   ダニー・アイエロ
   ヴィング・レイムス

映画のジャンルの中には
奇怪な映像演出を用いることにより視聴者をあえて混乱に導くことを旨とした「マインドファック」(MindFuck)というものがあります。
人を選ぶ内容の作品が殆どですが、一度気に入ればドラッグ並みの中毒性を引き起こすのも特徴です。
日本ではあまり浸透していませんが、海外では専用のランキングが作られる程の人気があります。

そんな「マインドファック」の代名詞的作品ともいえるのが本作「ジェイコブス・ラダー」です。
 

ストーリー
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ごく普通の郵便局員として生活するジェイコブ・シンガー、彼は未だベトナム戦争での心のギズが治らないのか、当時の光景をよく夢に見ていた。
ある日彼は地下鉄で寝過ごし、見知らぬ駅で目を覚ます。その寂れた駅で肩落としながら帰路につこうとするが、そこに突如電車が通過し、危うく惹かれそうになる。
がジェイコブは見ていた。そこに乗っていた乗客はとても人間に思えない異形の姿をしていたことを。
そしてこの出来事を機に、彼の回りで不可解な出来事が起こり始める…。
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意味がわからないものほど怖いものはない、理由もわからないままに謎の現象にもてあそばれるベトナム帰還兵を描いた不条理ホラー。一般メディア的にはKONAMIの人気ホラーゲーム『サイレントヒル』に多大な影響を与えたことでも有名。

ベトナム戦争の残火がもたらした文化か、奇形、精神病院といった要素がサスペンスやホラーに多く見られるようになった90年代、ここから2000年代にかけてのこの手の要素が受け続けた要因には、恐らく本作の影響もあることでしょう。

ベトナムに行く前の自分、ベトナムにいる自分、ベトナムから帰還した自分、と3つの視点を忙しなく、且つどれが「現在」であるかわからないほどに曖昧に移動する構成、徐々にいつもの暮らしが異形に変貌していく展開、ベトナム帰還兵の心痛、苦悩を体現したような演出の数々はホラーとして上等を成しています。しかし本作の一番の評価点はその心痛諸々を上記した奇形、精神病院で表現した点にあります。

単にキャラクターを奇形に、舞台を精神病院に指定してインパクトを狙う映画は多々ありますが、本作ではそれを精神的な悪夢の象徴として関連付けることにより、その存在に説得力を持たせることに成功しています。特に、ホラーファン、マインドファックファン達を唸らせた、終盤クライマックスの地獄の異世界ツアーにおける美術演出は、特殊効果一切なしの生撮りスピリッツに加えエイドリアン・ライン監督お得意の陰鬱なライティングもあり、人間が持つ生理的嫌悪感を具現化したような出来になっており、嫌でも記憶に残ること間違いありません。

混乱、恐怖といった形のないものを如何におぞましく表現するのかが、この手のマインドファック系ホラーの課題なら、本作は正にその模範例ともいうべき一作です。

尚、現在同監督によるリメイクが計画されており、10年以上たった現代でどのような変貌を遂げるか楽しみなところです。

TSUTAYA