マインドファック映画欄

主にサスペンスやマインドファック系の洋画の紹介、たまに雑記を少々

マインドファック『マルコヴィッチの穴』

マルコヴィッチの穴 [DVD]

無限の想像力に全世界が熱狂!

マルコヴィッチの穴

1999年公開

監督 スパイク・ジョーンズ

脚本 チャーリー・カウフマン

出演 ジョン・キューザック
   キャメロン・ディアス
   キャサリン・キーナー
   チャーリー・シーン
   ジョン・マルコヴィッチ

 

ストーリー
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妻との間も倦怠期を迎えた人形師グレイグ。彼はそろそろ定職に就こうとビルの7階と8階の間、7と1/2階にオフィスを構える「LesterCorp」に事務員として就職する。
そしてある日、彼はオフィスの壁に人が潜り込めるほどの穴を発見する。だがそれはなんと俳優ジョン・ホレイショ・マルコヴィッチの頭の中に繋るトンネルであった。
15分間だけマルコヴィッチになれるこの穴に味をしめたクレイグは上司のマキシンと共に「マルコヴィッチの穴」として商売を始めるが…。
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ジョン・マルコヴィッチ 代表作 『マルコヴィッチの穴』”

俳優名鑑を見ている時必ず二度見してしまうこの項目。この代表作に自分の名前が入っているという奇怪な現象を生み出した要因はこの映画にあります。

ユニークオブユニーク、俳優ジョン・マルコヴィッチになれる穴を巡って起こる騒動を描いた、メインジャンル測定不能のシュールストーリー。

「誰かになりたい」という変身願望は、人間一度は持つものですが、本作での変身対象は「ジョン・マルコヴィッチ」。トム・クルーズでもなければブラッド・ピットでもない、ブルース・ウィリスでもなければアーノルド・シュワルツネッガーでもない、

ジョン・マルコヴィッチ」。

劇中ですら「ジョン・マルコヴィッチて誰?」と中傷に近いセリフが出てくるほどに、自他共に認めるマイナー俳優の彼が、赤の他人に脳の中に勝手に入り込まれ散々に弄ばれるというプロットは、一見ネタ頼りのインパクトだけを狙ったPV位にしか見えませんが、マルコヴィッチ当人を観た瞬間、その考えはすぐに消え去ります。
本人役という、大して演技力云々とは無縁のような役割を果たすマルコヴィッチですが、彼のこれまでにくすぶっていた俳優魂でも爆発したのか、無駄なプライドはとっくに故郷においてきたと言わんがばかりに乗っ取られた際の奇行を見事に怪演します。

何せ、本作のプロットを見たマルコヴィッチは自らこの役を志願したというぐらい乗り気だったらしく、他のスタッフが別の役者の方が興業的にいいんじゃないかと反対の意を示していた所を、彼と脚本の奇才チャーリー・カウフマンが熱意を持って企画を押し通し実現させたというエピソードがあるぐらいですから、マルコヴィッチの本作にかける情熱がどれほどのものかが伺えます。

ニューヨーク映画批評家協会賞 助演男優賞という結果からも見て取れる通り、ジョン・マルコヴィッチという俳優の真髄を垣間見れる貴重な良作になっています。

TSUTAYA

『レイヤー・ケーキ』 ~「賢いヤツ」はバカを見ない~

レイヤー・ケーキ コレクターズ・エディション [DVD]

足を洗いたければ 手を汚せ

レイヤー・ケーキ

2004年公開

監督 マシュー・ヴォーン

脚本 J・J・コノリー

原作 J・J・コノリー

出演 ダニエル・クレイグ
   コルム・ミーニイ

ストーリー
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名もなき凄腕の麻薬ディーラーのXXXX。裏の世界の生き方を熟知している賢い彼の最終目標は「好調の間に引退する」ことであった。
「地方ギャングとのMDMAの取引」「組織のボスと懇意な大物マフィアの娘の捜索」、この二つの仕事を最後と決意していた彼であったが、
MDMAの取引相手のデュークが持ってきたブツはよりにもよって戦犯集団から強奪したものだと分かり…。
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暴力の蔓延る裏の階層(レイヤー・ケーキ)社会での本当に正しい生き方を示したギャングサスペンス。
ギャングと言っても本作に派手なドンパチはありません。何故なら「目立つことが一番のタブー」という裏世界の処世論が本作のテーマであるからです。
裏稼業を生業としているなら、下手に目立つことは、自分の存在を敵にアピールすることになり、危険を増やすことに繋がりますし、稼ぐだけ稼いでカタギに戻ろうとしても、悪名が知れ渡れば足を洗ってもまっとうな生活はできないのは当然のこと。
それが嫌ならば、目立つ行動は絶対に避け、自分の情報はできるだけもらさないことが絶対条件になります。それを象徴するかのように本作の主人公は「ファイトクラブ」同様完全無名の存在で、一切名前が登場しません
強いものが弱いものを食らうこの世界の構造のまっただ中にいる彼は、苦労多い危うい中間管理職の様な立場にいます。非常事態に陥って慌てたり、ちょっと恋愛にふけってみたり、一人間として申し分ない共感できる感情表現で容易に感情移入させてくれますが、それでも我々には決してその名前だけは伝えません。そこに彼の「キレ者」としての姿があり、「表向きは道化を演じていたも、大事なところは欺き続ける」劇中の姿勢を我々にも示しているのです。これは実に新しい主人公像と言っていいでしょう。
ただ騒ぐだけのチンピラと一線を引く「プロ」の生き様を示した映画は「ゴッド・ファーザー」等色々ありますが、「最後は普通に生きたい」という目標からしても、最も我々に近い視点でその姿を描いたのは本作ではないでしょうか。

TSUTAYA

マインドファック『ローズ・イン・タイドランド』

日本版劇場オリジナルポスター★『ローズ・イン・タイドランド』/テリー・ギリアム監督 /ジョデル・フェルランド

ギリアムのアリスは孤独の迷宮をさまよう

ローズ・イン・タイドランド

2005年公開

監督 テリー・ギリアム

原作 ミッチ・カリン 『タイドランド』

脚本 トニー・グリソーニ
   テリー・ギリアム

出演 ジョデル・フェルランド
   ジェフ・ブリッジス
   ジェニファー・ティリー
   ブレンダン・フレッチャ

ストーリー
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想像力豊かな10歳の少女ジェライザ・ローズはジャンキーの両親と不安定な生活を送っていた。
ある日、彼女の母が急死し、それを機に父ノアはジェライザを連れ彼女の祖母の家へ行くことを決める。
長旅の末、辿り着いた先は、祖母の家こそボロボロで祖母も死んで久しかったにしても、美しい大草原の広がる自然あふれる土地であった。
彼女はそこで、想像力を駆使して独自の世界を築き上げていくのだが…。
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バンデットQ」「未来世紀ブラジル」のテリー・ギリアム監督による孤独と悲惨に彩られた現代版不思議の国のアリス
子供の空想をそのまま練り固めたような世界観が魅力的なのか、数々の媒体でリメイクされ続ける不思議の国のアリスですが、近年ではダークな面をクローズアップさせようとする運動が流行りなようで、メルヘンなイメージのアリスはすっかり息を潜めています。
本作もそんな「ダークアリス」の系統を受け継いだ一作ですが、奇才ギリアムのフィルターを通した結果、他のどのアリスよりも「悲壮感」を重視した内容となりました。
開幕早々に薬で母親が死ぬ展開もそうですが、本作の「アリス」ジェライザ・ローズは10歳にしてあまりにも過酷な人生を強要されていきます。そんな数々の不幸に耐えるため、彼女は自分だけの「不思議の国」を構築し、現実を必死に緩和しようとします。
ギリアムのお得意の異次元描写もあってか、その彼女の築く「世界」は希望と孤独と「忘れられない現実」を入り交えた、正に「無邪気な悪夢」といえる姿を成しており、眼を見張るものになっています。
過酷な現実が進む一方で完成されていく「理想郷」、これが現実の「アリス」だと言わんがばかりの重厚なメッセージ性は、さすがテリー・ギリアムと言えます。

TSUTAYA

マインドファック『ビッグフィッシュ』

ビッグ・フィッシュ コレクターズ・エディション [DVD]

人生なんて まるでお伽話さ

ビッグ・フィッシュ

監督 ティム・バートン

脚本 ジョン・オーガスト

出演 ユアン・マクレガー
   アルバート・フィニー
   ビリー・クラダップ

ストーリー
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ジャーナリストのウィル・ブルームの父エドワード・ブルームは巧みに自分の人生を飾り語る、話し上手であった。
彼はウィルの結婚祝いの席でも、いつものウィルの生まれた日に釣りそこねた巨大な魚の話をして場を盛り上げた。
しかしそんなエドワードに当のウィルは何故いつも嘘偽りの話しかしないのかと不満を持っていた。
そんなある日、エドワードが倒れたと母サンドラから知らせが届き…。
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「脚色」することの素晴らしさを説いた男の「脚色」された奇妙な人生を描いた不思議系ヒューマンドラマ。
余命短いエドワードが冥土の土産とばかりに数々の話を聞かせてくれるわけですが、本作で語られるのは「思い出」でもなければ「寓話」でもない、エドワード自身の人生に脚色を加えた、いわゆる「ほら話」です。
街を抜け共に旅した巨人の話や体が繋がった双子の歌い手の話等、「本当の父の姿」を聞きたいウィルを尻目に、とてもこの世の回想とは思えないエピソードがわんさか語られていきます。
しかし「流石にありえないでしょ」とツッコミを入れつつも、グイグイと引き込まれていく面白みが彼の話にはあります。考えてみれば彼の語る「ほら話」は「空想」という「創作性」に加え「人生」という「リアリティ」を足したものであり、それは人類が今まで「物語」を作ってきた工程と何ら変わりないのです
そんな「作品」とも言えるエドワードの語りの裏で「父の現実」を探すウィルの存在もまた「ありのままの美しさ」を提示するアンチテーゼの役割を果たしており、決して思想的にも偏っていないところも評価点。
幻想的な空間の中「人生とは何か」という現実的な問題を追究するという形をとることにより、タラタラしがちなヒューマン系のストーリーに上手く娯楽性を混ぜることに成功した、文句なしの名作と言えましょう。

TSUTAYA

マインドファック『閉ざされた森』

閉ざされた森 コレクターズ・エディション [DVD]

「偽装」こそ 最も危険な武器である

閉ざされた森

2003年公開

監督 ジョン・マクティアナン

脚本 ジェームズ・ヴァンダービルト

出演 ジョン・トラボルタ
   コニー・ニールセン
   サミュエル・L・ジャクソン

ストーリー
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パナマ米軍基地にて、特殊演習中に密林に潜入した7人の内、4名が行方不明、1名が銃殺される事案が発生した。
現地駐在のジュリー・オズボーン大尉は生き残った2名の兵士から事情を尋問するも中々進展しない。
そこで突如元レンジャー隊員のトム・ハーディが駆り出されることになったのだが──。
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密林地での演習中に起こった不可解な事件を尋問を通して解明へと導こうとする軍人二人の奇怪な推理劇。
プレデター」「ダイ・ハード」等、アクション屋として名高いマクティアナン監督ですが、彼の作品を通してみると、圧倒的戦力で爽快感を作るというより、「戦力不足を頭脳戦で補い敵を倒す」という描写を得意としていることがわかります。そして本作はそんなマクティアナン監督の個性を顕著に現した内容と言えます。
生き残った2名から何があったのかを聞き出し、それを回想シーンとして映すことにより観客に「事実」として認識させる、『ユージュアル・サスペクツ』に似た手法を用いますが、本作はここから情報の様々な食い違いを起こし、複数のパターンの回想を出すことで、それまで観客が抱いていた事件の全体像を崩し、先の見えなささを演出する、上等な業前を披露しています。
そしてキャラの個性がモノを言うアクション出身としてのなごりもあってか、ミステリーにしては、妙に記憶に残るアクの強いキャラが多いのも魅力。個人的には、回りが男臭いせいか、必然的に頼りなくて可愛く見えてくるベリーショート堅物女軍人のヒロインのオズボーン大尉が好みでした。
アクションとミステリー、両方のスパイスが程よく利いていて、万人が楽しめる作品となっているのでオススメです。

TSUTAYA

マインドファック『ブラック・ムーン』

ブラック・ムーン 《IVC 25th ベストバリューコレクション》 [DVD]

不思議の国の黙示録

ブラック・ムーン

1975年公開

監督 ルイ・マル

脚本 ルイ・マル
   ジョイス・ブニュエル
   ジスラン・ウーリー

出演 キャスリン·ハリソン
   ジョー・ダレッサンドロ
   アレクサンドラ・スチュワルト

ストーリー
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これは理屈の通じない別世界の話です
夢のような旅へどうぞ
           ルイ・マル
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ストーリー説明すら蛇足と感じたほどに、あらゆる面で難解な幻想描写が目立つ、ルイ・マル監督の芸術系ファンタジー(?)映画。
話は詳しく説明したところで「アライグマを車で轢いた女が男女で戦争起こしてる一団に絡まれて、逃げるように近くの屋敷に入ったら通信機で会話する婆さんや裸で豚と戯れる子供達、挙句の果てにユニコーンまで出てきてしまった。なんぞこれ」といった具合なので、内容に意味や整合性を求めずに、ただ流れに身を任せて鑑賞するのが好ましいでしょう
全体の雰囲気として「不思議の国のアリス」をモチーフにしてか、頭のネジをゆるめて発想したような、「存在理由がまるで解らない」ものがウジャウジャ登場する構成をとっています。ただそこに「行動理由もまるで解らない」という救済処置皆無な冒険を施していますが。
しかし本作が興業的にはともかく、評論家受けをしたのは事実。70年代、それも高い予算が導入されている訳でもないのに、発想と探究心でここまで自由な世界観を構築できたのは見事と言えます。
それでも暇つぶしにと言うよりは、ハナから「芸術映画を観るんだ」と意気込んで視聴するのがモチベーション的には正しいかもしれません。

TSUTAYA

マインドファック『デッドゾーン』

デッドゾーン [DVD]

彼の頭には 未来を見る力がある
 彼の手には 未来を変える力がある

デッドゾーン

監督 デヴィッド・クローネンバーグ

原作 スティーヴン・キング

脚本 ジェフリー・ボーム

出演 クリストファー・ウォーケン
   マーティン・シーン

ストーリー

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ニューイングランドの若き教師であったジョニー・スミスはある日大きな自動車事故に巻き込まれる。そして彼が目を覚ます頃、すでに5年の歳月が経っていた。事故の後遺症と当時恋人だったサラの結婚を聞いて絶望の底に叩き落とされるジョニー。
しかし、同時に彼には別の異変があった。触った相手の当然知りもしない「未来」が見える予知能力が発現していたのだ──。

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不慮の事故によりそれまでの人生と引き換えに予知能力を得た男の悲しき末路を描いたSFサスペンス。
奇抜な発想と心打つストーリーに定評のあるスティーブン・キング奇抜なチョイスと生々しい映像表現に定評のあるデヴィッド・クローネンバーグのある種奇跡のコラボレーションなのも見所。
題材そのものは、レトロSFならよくあるものですが、本作が他と一線を引くのは、当の予知能力よりも、それに支払った「代償」に焦点を当てきった点にあります。
上映時間の100分間、ジョニーの予知能力者としての凄さをアピールする以上に、事故により失った5年を悔み、能力が周囲に知れ渡った後も「普通の生活」を送ることを望む、等身大の人間としての姿がクローズアップされています。
人間が生きていくのに特出した「超能力」はいらない、ただ「人並みの幸せ」さえ得られればそれでいいんだ、という考えさせられる幸福論が下地に感じ取れます。
テーマ含め暗い内容なのは間違いありませんが、決して主人公が悩みすぎてウジウジしていないのも良いところ。
作中、彼は彼なりに最善を尽くして生きており、何とか「人並みの幸せ」を得ようと行動します。それでも尚、過ぎた時間は取り戻せず、以前の生活には決して戻れない。そんな後ろ姿から生まれる哀愁は、もどかしさのない潔さを孕んでいて、「格好良い」の一言につきます。

TSUTAYA