マインドファック映画欄

主にサスペンスやマインドファック系の洋画の紹介、たまに雑記を少々

『レイヤー・ケーキ』 ~「賢いヤツ」はバカを見ない~

レイヤー・ケーキ コレクターズ・エディション [DVD]

足を洗いたければ 手を汚せ

レイヤー・ケーキ

2004年公開

監督 マシュー・ヴォーン

脚本 J・J・コノリー

原作 J・J・コノリー

出演 ダニエル・クレイグ
   コルム・ミーニイ

ストーリー
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名もなき凄腕の麻薬ディーラーのXXXX。裏の世界の生き方を熟知している賢い彼の最終目標は「好調の間に引退する」ことであった。
「地方ギャングとのMDMAの取引」「組織のボスと懇意な大物マフィアの娘の捜索」、この二つの仕事を最後と決意していた彼であったが、
MDMAの取引相手のデュークが持ってきたブツはよりにもよって戦犯集団から強奪したものだと分かり…。
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暴力の蔓延る裏の階層(レイヤー・ケーキ)社会での本当に正しい生き方を示したギャングサスペンス。
ギャングと言っても本作に派手なドンパチはありません。何故なら「目立つことが一番のタブー」という裏世界の処世論が本作のテーマであるからです。
裏稼業を生業としているなら、下手に目立つことは、自分の存在を敵にアピールすることになり、危険を増やすことに繋がりますし、稼ぐだけ稼いでカタギに戻ろうとしても、悪名が知れ渡れば足を洗ってもまっとうな生活はできないのは当然のこと。
それが嫌ならば、目立つ行動は絶対に避け、自分の情報はできるだけもらさないことが絶対条件になります。それを象徴するかのように本作の主人公は「ファイトクラブ」同様完全無名の存在で、一切名前が登場しません
強いものが弱いものを食らうこの世界の構造のまっただ中にいる彼は、苦労多い危うい中間管理職の様な立場にいます。非常事態に陥って慌てたり、ちょっと恋愛にふけってみたり、一人間として申し分ない共感できる感情表現で容易に感情移入させてくれますが、それでも我々には決してその名前だけは伝えません。そこに彼の「キレ者」としての姿があり、「表向きは道化を演じていたも、大事なところは欺き続ける」劇中の姿勢を我々にも示しているのです。これは実に新しい主人公像と言っていいでしょう。
ただ騒ぐだけのチンピラと一線を引く「プロ」の生き様を示した映画は「ゴッド・ファーザー」等色々ありますが、「最後は普通に生きたい」という目標からしても、最も我々に近い視点でその姿を描いたのは本作ではないでしょうか。

TSUTAYA