マインドファック『ザ・フォール 落下の王国』
君にささげる
世界にたったひとつの作り話
ザ・フォール 落下の王国
監督 ターセム・シン
出演 リー・ペイス
カティンカ・アンタルー
ジャスティン・ワデル
ダニエル・カルタジローン
ストーリー
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ロサンゼルスのとある病院。無声映画のスタントマンをしていたロイは重症から、仕事と恋人を失い、自暴自棄になっていた。そんな時病室に顔を出したのは、オレンジをとりそこね、木から落ち、骨折して入院していた少女アレクサンドリアであった。
ロイは彼女に自殺用の薬を持ってきてもらうことを画策し、その餌として、即席で考えた「6人の勇者による【愛と復讐の物語】」を語り聞かせる。
そんな「汚れた寓話」は次第に少女の、そして語り部のロイの人生をも救う大きな物へと変貌していく…。
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「ビジュアル映画」という称賛とも揶揄ともとれる評価を受けた『ザ・セル』で名を馳せたターセム・シン監督による、大怪我で何もかもを奪われ自暴自棄に陥った青年スタンドマンと純粋な少女との「作り話」を通じての心の成長を描く御伽ヒューマンドラマ。
早くも自分の方向性を見つけたのか、『ザ・セル』のSF的な世界観から一新し、子供心あふれるメルヘン風味な作りに徹した本作。恐らく一番「自然」に独創的な監督のビジュアル表現、及び石岡瑛子氏の奇抜な衣装を登場させることができる「作り話」というコンセプトが気持ちいいぐらいに機能しています。
例の如く、現実パートと「お話」パートに別れて展開していく構成ですが、現実パートの舞台である田舎の病院と「お話」パートの色味鮮やかなターセム・シンワールドが妙にマッチしており、両パートをしきりに行き来してもお茶を濁された感は全くありません。さらに語り部のロイが即席で作ったということから、物語の登場人物に身近な人物をモデルにしたり、話の展開を場の気分で変えたりと、その時の心情が直接反映されており、現実パートへの繋がりが明確にあるのも面白いです。
作中提示される、物語は語り部だけでなく、聞き手もまた「作者」ではないかという疑問も興味深く、ロイが提示した暗い展開に、アレクサンドリアは度々意見をはさみ、軌道修正を要求する様は、現代社会でも珍しい光景ではありません。二次創作という形で言えば、聖書を含め太古の昔から行われてきましたし。
実に幻想的に、物語は何のために存在していのかという問への一つの答えを描いた本作は、少なくとも「ビジュアル映画」の一言で終わる作品ではないことは確かです。