マインドファック『ストーカー』
見慣れた顔ほど 危険なものはない
ストーカー
2002年公開
監督 マーク・ロマネク
脚本 マーク・ロマネク
出演 ロビン・ウィリアムズ
コニー・ニールセン
マイケル・ヴァルタン
ストーリー
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11年以上スーパーのフィルムの現像の仕事を務めてきたサイ・パリッシュには、密かな楽しみがあった。
彼は顧客の持ってきたフィルムを余分に現像し、それを家に飾り感傷に浸るという寂しき趣味があった。
そんな彼のお気に入りはお得意様のアットホームを絵に描いたようなヨーキン一家の写真であった。
彼らの幸せそうな写真を見つめる内にサイはそこに自己を投影するようになっていたのだ。
そんなある日、ヨーク家の異変をとある写真で察し始めた彼は遂に一線を越え始める──。
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善意の塊のような写真屋の男が「個人情報」に触れ続けたために「善意のストーカー」になる過程を描いたサスペンス作品。
「個人情報」といえば電話番号やクレジットカード等を連想しますが、本作では、最も身近で自分の人物像が浮き彫りになる「個人情報」は「写真」であり、その「写真」を取り扱う「写真屋」は最も人のプライバシーに触れることのできる職業であると主張します。
そんな職の盲点の中、寂しき人生を送る写真屋のサイは、仲睦まじいヨーキン一家の写真を現像していく内に、自分にないものを一家に見出し、傾倒、そして一線を越えていくわけですが、この流れが実に自然なのが驚く所。
犯罪の中には、「相手のことを思ってやった」という歪んだ「善意」を持って行われるものもあると聞きます。この写真屋のサイ・パリッシュもそのケースなのですが、本作はそのサイの目線で物語が進むので、サイが凶事を起こすまでの「善意」が明確に描写されています。
例えば店内でばったりあったヨーキン家の長男ジェイクくんが、欲しがっているロボットのフィギュアすら父親から買ってもらえない状況を見て、家庭の不和を察したサイは、ジェイクくんの相談に乗ろうと彼を尾行します。結果機嫌取りにプレゼントをあげようとしたりしても避けられ気味になったりと、良い結果が生まれず、落ち込んでしまいます。
はたから見れば、赤の他人が勝手にストーキングした挙句に接触を試みたという犯罪記録にしか見えませんが、これをサイ当人の目線で演出しているので、如何に気心を不意にされた物悲しく同情を誘う話しであるかが強調され、主観フィルターの恐ろしさを垣間見ることができます。しかもこれが全て写真の盗み見から始まっていることという異常性もオマケにつけて。
しかし、劇中サイが度々語る、写真があるということは愛されている証などの「写真論」は写真の存在意義を非常によく要約しており、このウンチクを聞くだけで、そんな重要な記録に触れ続ければ、情の一つや二つ入ってしまっても無理もない、と思えてしまう説得力のあるもので、おかしいと分かっていても、サイへの感情移入を助長していきます。
16世紀から現在に至るまで何故人間が写真を好むのか、よくも悪くもその理由が明確に描かれた作品といえるでしょう。
ちなみに上記したジェイクくんが欲しがっていたロボットはまさかの「エヴァンゲリオン」、しかも「量産機」。
ジェイクくん曰く「白い翼で空を飛び、銀の剣で悪いやつらをやっつける」とのことらしいのですが、実際原作でやっていたことといえば、「白い翼で空を飛び、銀の剣(?)でメッタ刺しにした挙句、ハゲタカのように寄って集って内蔵を貪り食う」という誤差とかいうレベルでは済まされないほどにかけ離れた真似をしていました。
それでも本作ではこれがヨーキン家の象徴としてか、度々姿を表すのですが、元が元だけに狂気のメタファーにしか見えないのはご愛嬌。
しかし、唐突に『エヴァンゲリオン』がでてくるとは…、スタッフにエヴァ好きでもいたのでしょうか…と思って調べてみたら犯人はロビン・ウィリアムズでした。
ジブリ見て悦に浸ってそうな顔してるのに、隅に置けませんねぇホント。
畜生から子供のヒーローに大出世
ジブリ見て税に浸ってそうな顔のロビン・ウィリアムズ