マインドファック映画欄

主にサスペンスやマインドファック系の洋画の紹介、たまに雑記を少々

マインドファック『未来世紀ブラジル』

未来世紀ブラジル [Blu-ray]

おかしくて かなしく そして
   夢と幻想が交差する新次元映像!

未来世紀ブラジル

1985年公開

監督 テリー・ギリアム

脚本 テリー・ギリアム
   チャールズ・マッケオン
   トム・ストッパード

出演 ジョナサン・プライス
   ロバート・デ・ニーロ
   マイケル・ペイリン

 

ストーリー

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複雑で非効率的な未来社会の中、そこでテクノクラートを務める、サム・ローリーは、最近ナイトの格好になり美女を助けるというおかしな夢ばかり見ていた、そしていつしかこんな息苦しい社会から離れて夢の美女と幸せに暮らしたいと夢見るようになる。
そんなある日、情報局の誤報で指名手配犯として無関係の人が逮捕される事態が起こる。その現場を目撃したトラックの運転手ジルは講義を申し立てる。
一方、ミスの処理にてんやわんやになっていたサムは、偶然ジルを見かけ、それが夢の中の美女とそっくりだと気づき…。

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社会主義全開の超管理社会となった絶対に住みたくない未来世界で徐々に壊れていくある不幸な男の末路をどギツイユーモアを含めて描く風変わりSFカルト映画。
「未来世紀」という響きのいい邦題も含めて、個人的に大好きな一品。
カルト映画の中では「イレイザーヘッド」と並び知名度があり、映画好きに、好きな映画は未来世紀ブラジルと答えると「通だね」と褒めてくれるとかくれないとか。
本作は未来世界が舞台ですが、未来世界といえば、あんなこといいなできたらいいなと、ポジティブに連想するのが普通です、しかし本作の世界は『1984』よろしく、あんなことやだなあったらやだなと、実にネガディブに形成されています。その上、ただ退廃的な未来なら、探せば他にも色々な作品が取り扱っていますが、本作の場合、70、80年代の未来予想図をそのまま当てはめたような、物の大型化、複雑化に歯止めを効かせなかった、「窮屈」でノスタルジーあふれる、「今見れば住みたくないことこの上ない」世界という特色を持っています。
そんな世界で観客はサムの視点から、「レトロ」な「未来観」管理社会に対するアンチテーゼを彼の生活を通してまじまじと楽しむことになります。なにせ、この軍艦島を肥大化させたような舞台や家畜小屋の如く息苦しさを感じる世界観の作りこみはぬかるところがないので、サムの日常を追うだけでも、遊園地のアトラクションを見て回る様な面白さがあるのです。
現在でも20世紀における「21世紀の象徴」ともいえるリニアモーターカーがやっとできたのはいいものの、早すぎてソニックムーブがでるから地下トンネル限定の走行となり、景観もへったくれもないので、観光には向かないわ、掛かる費用も莫大だわ(その上ほとんど鉄道会社持ち)、地上に上がる時間も考慮すると到着時間も新幹線との差もあまりないわで、予想図のような普及は無理だという話がありました。いつの時代も「未来観」はこうして実用性の検討の末、訂正を繰り返し、より「現実的」で「便利」な姿に変わっていくものですが、それらの過程をかなぐり捨てた場合、どのような「未来図」が待っているのでしょう、それが本作の世界の様にはならないという保証はありません。
そんな問題定義だらけの世界でサムが次第に壊れていく様は、決して人事には思えません。現在私達は本当に「現実的」で「便利」な世界に住んでいるのか、そう再確認したくなる作品です。


TSUTAYA