マインドファック映画欄

主にサスペンスやマインドファック系の洋画の紹介、たまに雑記を少々

『月に囚われた男』 ~青い「月」が輝く天然の牢獄より~

月に囚われた男 コレクターズ・エディション [DVD]

このミッションは何か おかしい

月に囚われた男

2009年公開

監督 ダンカン・ジョーンズ

脚本 ダンカン・ジョーンズ
   ネイサン・パーカー

出演 サム・ロックウェル

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近未来、3年間の契約の下、月の採掘基地へ派遣されていたエンジニアのサム・ベルは、地球との交信もロクにできず、人工AI搭載のサポートロボ「ガーティ」が唯一の話し相手という悪環境にいた。
そんな孤独な状況も残りわずかと迫っていた矢先、サムは基地外で事故を起こしてしまう。
医務室で目を覚ました彼は、ある違和感から事故現場へと足を進めた。
するとそこには、怪我をして倒れているもう一人の自分が─。
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HALLとは違うんですHALLとは!!

広大な月面で孤独に働く男に降りかかる悲劇を描いたスペースサスペンス。
日本未公開にもかかわらず、口コミ、評判からBRリリースまで持ち込んだ実力派だけあって、無機質な月面基地に取り残された男のホームシックを基軸に哀愁と感動を見事に演出しています。
リアリティある、音のない月面の物寂しい雰囲気や登場人物が3人(内1台)いるにもかかわらずにじみ出る孤独感など、称賛すべき工夫の程はいくらでもありますが、やはり特筆するならサポートロボット「ガーディ」の存在でしょう。

『2001年 宇宙の旅』の「HALL」の様に人間の仕事を援護するために作られた人工AI入りのハイテクロボット───なのですが、それこそHALLよろしく、無骨な箱形のマシン感満載のボディに、機械音声の無愛想な声、モニターに映るポップなフェイスマークによる申し訳程度の感情表現と、およそ感情移入とは無縁の「THE.機械」といった、初見では登場人物と含めるのもどうかとさえ思えてしまうほどなちをしています。
しかしその実態は、ビデオメッセージしかよこさない地球人の誰よりも、サムを献身的に思いやり、心配し続けていた存在であり、サムの為に動き、悩み、そして決断する姿は胸を打つものがあり、そこに無機物としてのイメージはありません。
上記のHALLが人間の負の部分を体得してしまったとすれば、ガーディはさながら正の部分を獲得した、理想のロボット像と言えるでしょう。
何気に過去の名作とも比較ができるのも面白い要素。

物語が進む度に明らかになっていく救い用のない設定から、それに身を切る覚悟で対処しようとしていく3者の涙ぐましい行動と葛藤の数々。
スリラーとしても飽きさせない一級品で、ホント何でこれが劇場に来なかったか不思議でなりません。

どこぞの医療器具のような姿のガーディ。しかし本作一番の人格者。

青く美しく光る地球も、本作ではもどかしさの対象でしかない…。